「もしもし」
その電話は突然だった。見慣れた画面が着信を知らせる。
旦那からの電話だ。いつものように『今何してるの』だとか『暇?』とか、どうでもいい内容だろう。私はいつものように呑気に返事をする。
「亀つかまえたけど、いる?」
亀か。この旦那、果物いただいたとか、栗をいただいたとか、すごいときには鹿肉をいただいたとか。そんな電話をしてくるのだ。
亀、どうやって食べよう……そこまで思案して、私は正気に戻る。
「え、亀?」
「おう、たぶんクサガメ?ってやつ?らしいわ」
私は実家のクサガメ2匹を思い描く。あの愛しいおバカ凶暴ガメたちは元気だろうか。
歯が欠けてアホ面を晒しているのがエン、ブレまくっているのがツキという。漢字で書くと『縁』と『月』だ。そんな彼ら(彼女ら?)のことを思い描きながら私は言う。
「いらん」
ただでさえ我が家、イモリにヤモリにカナヘビと生き物屋敷なのだ。生き物を増やす予定こそあるが、少なくともそれは亀ではなかった。
「そうか」
そう言って電話は切れた。それにしても、亀か。かわいいよな。長く苦楽をともにした亀は無表情ながらも『感情がわかる』のだ。
うちの亀なんか嫌いな餌を食べたときに人間をにらみつけながら歯ぎしりをしたものだ。感情豊かすぎる。
惜しいことをしたかな、いやでもな。
飼えるキャパはあるぞ、と頭の中で悪魔が囁く。
数分後。
再び着信。
「もしもし」
「もしもしぃ、やっぱコイツなんかクサガメじゃないかもぉ」
旦那だ。ちなみに便宜上旦那と呼んでいるが内縁関係にあるだけだ。出会いから同棲までがとんでもない人生だったのでいずれまたブログに書こう。
それはそれとして。
「え、クサガメじゃないん」
実物を見ていない私にはわかりかねる。
「うん、なんか顔の横に黄色い模様?がないから違うって。イシガメじゃないか?って」
おそらく現場には生き物に詳しい人がいるのだろう。私の想像だとイモリセンパイだ。
イモリセンパイは旦那と同じ会社の人で、うちのイモリたちの育ての親なのだ。両生類ガチ勢の彼に会ったことはないが、Twitterをよく見させていただいている。
まあイモリセンパイじゃないかもしれないけど。生き物に詳しい人間がそういうのなら違うのだろう……か。
「クサガメやったら背中に3本のなんか山みたいな線(キール)が入るよ」
「まあ見てや」
画面が切り替わる。ビデオ通話がスタートした。
私のニキビ跡だらけでテカった顔面を無視して旦那はきれいなお花を映す。あれ、亀は?
画面が移り変わる。すると、黒っぽい小柄な亀が現れた。
ビデオ通話だとよく見えない。しかしその亀は、どうみてもクサガメではない。
「イシガメやんけ」
写真も送ってもらった。
「どうみてもイシガメやんけ」
「この子さぁ、左足の先っぽ無いよ。かわいそうじゃない?」
かわいそうかどうかはさておき。
この大きさまで(とはいえまだ小さい方だが)育ったということは自然で生きる力は十分ありそうだ。
強い子なんだと思う。それこそ、うちで飼わなくても大丈夫なぐらい。
きっとこれから何年も生きて、歴戦のヌシ個体になって、ハンターの前に立ちふさがるんだ。
外の世界でのびのびと生きていってほしい。
30分後……
いらっしゃいませ。
そこには誘惑に負けた私の姿が。
亀をバケツに突っ込んで、徒歩10分のホームセンターに行きます。
飼育容器をトロ舟(プラ舟)と衣装ケースで2時間迷い、餌や延長コードや陸地用のコンクリートブロックを買って帰ります。
こうして見ると
そこそこでかいかも。実家の亀と戦えそうです。
写真漁ったらそんなことなかった。実家の亀でかすぎ。
名前まだ決めてません。
今の家にいる子の名前が「ゴア」「シャガル」「クシャル」と来て「チョロQ」なので大体なんでもいいんですけどね。
悩む時間が1番楽しいけど、このままだと「カメサン」になってしまうので早く決めなきゃね。
2022/12/15追記
名前、Twitterでアンケート取りました。
お名前アンケート締め切ります〜!
— ごあごあ (@goagoa_fish) 2022年12月13日
亀さん、お名前は「クレベ」に!
クレベさん、よろしくね🐢 pic.twitter.com/QxtWUxqyIf
ポケ○ンから拝借して「クレベ」になりました。耐久高そうですね。
そんなクレベさん。
即脱走して部屋に落ちてました。暖房きいてるし部屋きれいだし、入りこみそうな隙間ないからいいけどさ…………